To Be with You

その昔、20年以上前


彼と出会って、友達以上の仲になった頃

私は、故郷の恋人に別れを告げられた


彼が言うには「毎日死んじゃいそうな顔してた」らしい


その頃、彼と一緒に受けていた講義の合間に、音楽を流す時間があったらしい

彼からそう聞かされても、そんな記憶、私にはまったくないのだけれど


その時に、彼が、洋楽好きの友人に相談してオススメされて、流したという曲


Mr.Big『To Be with You』


そんな時間があったことすら覚えていない私が、こんな曲のことなんて覚えているわけがなかった




彼と再会してから、一緒にお酒を飲む時

(今はそんなこともなかなかできないけれど)

話題の半分くらいは、出会った頃のこと

共通の話題だから、楽しすぎて、いつまでも話してしまう

酔ってるから、何度でも同じ話をする

懐かしそうに話してくれる彼の顔も、いつもよりやさしくて、大好きで


酔ってくると、私はいつも同じ質問の繰り返し


「いつから私のこと好きだったの?」

「かわいいと思ってた子が、他にもいたんでしょ?」

「誰かに言い寄られたりしたんでしょ?」


彼の答えも毎回同じ

答えがわかってて、いつも同じ質問をして、その答えを聞いて、満足したり、すねて怒ったり


そして、お決まりは


「なんであの時、もっとしつこくつかまえようとしてくれなかったの?」

「もしあの時に戻ったら、私と結婚する?」


と、彼に絡んだり


「なんでこうなっちゃったんだろ」

「こんなにも好きなのになんで私たちはずっと一緒にいられないんだろ」

「こんなにも好きでごめんね」

「私なんかとまた会っちゃったせいでいやな思いばっかりさせてごめんね」


と、泣き出す


私がそんなことになっても、彼は

「まーたはじまった」

と言って、ただ笑っている



そうやって昔話をしていると、彼は、酔えば酔うほど、時々だけれど

「あ!酔っ払ってきたら思い出したぞ」

と言って、私がまだ聞いたことのない話をしてくれることがある


一度は、私がふられた故郷の恋人の話

「バイクに乗ってるヤツだっただろ?」

と言った


私「えー?なんで知ってるの?」

彼「昔お前から聞いた、お前から聞く以外、知れるわけないだろ」

私「そうだよ、○○○(バイクの名前)」

彼「あー!そうだ、○○○、お前がそう言ってた!思い出した」


そんな、ちっちゃな、どうでもいいようなことを、彼が覚えていてくれたことに、驚いたり、すごくうれしかったりする





その曲のことを彼が話してくれたのは、単身赴任中の彼のお部屋でふたりで酔っ払っていた夜

彼の、異動の直前だった


彼はその日飲み会で、その夜は、私が先に彼のお部屋にいて、たった一度きり

「おかえりー」

と、彼を迎えてあげられた夜だった


忘れられない、貴重な夜


「(私の名前)ただいま〜」

と部屋に入ってきた彼は、とってもご機嫌で

「お前がここにいるなんて、サイコーだな」

「灯りがついてる!いるいる!って、うれしくてさぁ」

「お前と飲めるなんて、ホントにうれしいよ、俺」

と、その後も、またどんどん飲んじゃって

私もどんどん飲まされて

明け方まで飲んだ挙句、エッチの最中に寝ちゃった、らしい

ふたりとも全然覚えてなかったけど、そんな形跡はあったから


そんな夜に

「酔っ払ってきたら思い出したぞ」

と言って、その曲の話をしてくれた


彼「あの時さぁ、お前、男にフラれてさぁ、死んじゃいそうな顔しててさ、俺はバカ笑いしてるお前が好きだったのに」

私「そうだっけ?覚えてないよ」


そして、その洋楽好きの友人に

「なんて言って、相談したの?」

と聞いたら


彼「好きな女に伝えたいことがあるから、なんかいい曲ないか、って」

私「ごめん、そんなのなんにも覚えてない、なんにも伝わってないよ、全然知らなかったよ、そんなこと」

彼「え?アレ?そーなの?」

と、彼はおどけた顔をして

ふたりで笑った


その夜は、その曲のこと、確かめもせずに


私がそれを思い出したのは、その数日後

ちょうど、彼が異動命令をもらった日

彼から

「○○に異動です」

とLINEが届いたあと

なぜだか、不意に、その時の会話を思い出した


動画と、歌詞を検索してみた


「あぁ、この曲か」

知ってる、聞いたことがある曲だった



失恋した女の子に


こっちへおいで

乗り越えておいで

僕が君にぴったりのやつだって証明するよ

どうして一人ぼっちだと思うんだい

僕たち一緒にいるだろう

君は僕の生活を価値のあるものにできるんだ

それなら僕は君を笑顔にしてあげよう

ただ君の横で一緒にいたいだけなんだよ



こんな、ステキな曲だった

彼の異動が決まって、その知らせを受けた直後の私

こんな歌詞を読んで、涙が止まらなかった


彼が、ホントに愛おしくて


そして


「Mr.Bigの曲の和訳です

こんな歌詞だって、あなたは知ってたのかわからないけど

もし知ってたなら、こんな気持ちでいてくれた人を、ちゃんと大切にしなかったあの頃の私は、本当にバカだったね」


と、その歌詞と


「(彼の名前)本当に、好きです」


と、LINEで送った




1時間後に、彼から


「歌詞、知ってたよ

昔、確認したよ

ありがとうね

Be with youです」



今から1年ほど前

彼のお引越しの数日前


20年以上前の若かった彼からもらった

時空を超えたプレゼントだった



若かった私は、ホントにバカだった


だけど

20年以上経って、やっと

ちゃんと受け取ったから


『あなたと一緒に』ね



ずっとだよ


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